老人・高齢者の交通事故による死亡慰謝料の相場や計算法は?

こんにちは、管理人です。近年、交通事故による死者数は年々減少傾向にありますが、高齢化で高齢者人口が増加することに伴い、65歳以上の高齢者の死者数が占める割合は増加傾向にあります。

老人・高齢者が交通事故で死亡した場合、死亡慰謝料はどのように算定されるのでしょうか。子供や働き盛りの世代などと比べて、慰謝料の相場に違いはあるのでしょうか。

今回は、老人・高齢者の交通事故による死亡慰謝料について、詳しく解説します。

死亡慰謝料とは

まず、死亡慰謝料について簡単に説明します。慰謝料とは被害者が被った精神的損害を賠償するためのものです。被害者が交通事故で死亡した場合、被害者の遺族が加害者に対し、死亡慰謝料を請求することになります。

死亡慰謝料は損害賠償金の一部

死亡事故における損害賠償金にはさまざまな項目があり、主な項目は下記のとおりです。死亡慰謝料は、損害賠償金の一部ということになります。

 ①死亡慰謝料(被害者と遺族の精神的苦痛に対する補償金)
 ②葬儀関係費用(通夜や葬儀費用、祭壇料、火葬料、埋葬料など)
 ③死亡逸失利益(被害者が生きていれば得られたはずの収入)
 ④治療費・通院費(治療後に死亡した場合)
 ⑤弁護士費用(訴訟した場合)

被害者の年齢や立場は、上記①死亡慰謝料や、③死亡逸失利益の金額に影響する可能性があります。

死亡慰謝料の種類

死亡慰謝料は、下記の2つの慰謝料に分かれています。

 ①被害者本人に対する死亡慰謝料
 ②被害者の遺族に対する死亡慰謝料

①の慰謝料を請求できるのは遺族(相続人)となります。また、②の慰謝料を請求できる遺族は、生前に故人と関係の深かった遺族となり、被害者が高齢者の場合は「配偶者」や「子供」、「同居している孫」などが考えられます。

死亡慰謝料の3つの算定基準

死亡慰謝料には、下記3つの算定基準があり、算定基準によって金額に大きく差がでる可能性があります。

 ①自賠責保険責基準
 ②任意保険基準
 ③弁護士基準

任意保険基準の慰謝料は、一般的には自賠責保険基準の金額より多く、弁護士基準の金額より低いと言われています。

任意保険基準は保険会社によって基準が異なり、かつ非公開となっているため、ここでは自賠責保険基準と弁護士基準における高齢者の死亡慰謝料について、詳しく説明していきます。

自賠責保険基準における高齢者の死亡慰謝料

自賠責保険基準の死亡慰謝料は、「自動車損害賠償責任保険の保険金等及び自動車損害賠償責任共済の共済金等の支払基準」(平成13年告示第1号 金融庁・国土交通省)で具体的に定められています。

被害者本人に対する慰謝料

自賠責保険基準における「死亡した被害者本人の慰謝料」は、被害者の年齢や立場に関わらず、一律350万円とされています。従って、被害者が高齢者の場合も、本人分の死亡慰謝料は「350万円」です。

遺族に対する死亡慰謝料

自賠責保険基準における「遺族に対する死亡慰謝料」は、下記のとおり定められています。

請求権者の人数 被害者に被扶養者がいない場合 被害者に被扶養者がいる場合
請求権者1人の場合 550万円 750万円
請求権者2人の場合 650万円 850万円
請求権者2人の場合 750万円 950万円

仮に70歳で年金暮らしの高齢者が交通事故で死亡し、遺族が1人しかいなかった場合、その死亡慰謝料の総額は、 

350万円(本人分)+550万円(遺族分:1人)=900万円

となり、この金額が自賠責保険基準における死亡慰謝料総額の最低金額となります。

また、自賠責保険基準における死亡慰謝料総額の最高金額(請求権者3人以上、かつ、被害者に被扶養者がいる場合)は、

350万円(本人分)+950万円(遺族分:3人以上&被扶養者あり)=1300万円

となります。

弁護士基準における高齢者の死亡慰謝料

弁護士基準とは、交通事故における裁判所の考え方や判例を参考にした基準です。

いくつか基準があり、全国的にもっとも利用されているのが、日弁連交通事故相談センター東京支部編集の『民事交通事故訴訟損害賠償額算定基準』(赤い本)です。

赤い本の死亡慰謝料

裁判所基準(赤い本)では、被害者本人の立場により、死亡慰謝料(本人分+遺族分の総額)の相場が下記のとおり示されています。

本人の立場 死亡慰謝料の総額(赤い本)
母親(子がいる者)、
配偶者(夫または妻がいる者)
2800万円
一家の支柱(経済的支柱となっている者) 2500万円
その他(独身男女、子供、高齢者など) 2000万円~2500万円

被害者が高齢者の場合は「その他」に該当するため、高齢者の死亡慰謝料は「2000万円~2500万円」が相場ということになります。

ただし、被害者の家庭内での役割が大きい場合(高齢者でも家族を扶養していた、主婦として家族の面倒をみていた等)は、相場を上回る死亡慰謝料が認められることもあります。

死亡慰謝料が増額した裁判例

赤い本などの基準は、あくまで目安とされており、実際の裁判では、個別の事情を考慮して慰謝料が増減されることがあります。

下記のような個別の事情を考慮して、本人分や遺族分の慰謝料が増額されたり、子だけでなく孫にも慰謝料が認められたりしています。

 ・本人の家庭内での役割(主婦として稼働、生活・療養を全般的に頼られていた)
 ・事故原因(飲酒運転)
 ・同居している遺族(遺族に深い悲しみや負担が生じた)

交通事故と死亡の因果関係の問題

高齢になると、持病や既往症を持つ人が増えてきます。また、交通事故によるケガの治療や入院が長引くと、体力低下により肺炎など別の病気にかかって死に至る場合もあります。

持病や既往症を持つ高齢者が交通事故で死亡した場合や、事故による傷病とは別の傷病名で死亡した場合、加害者は死亡の責任をどこまで負うのでしょうか。

このようなケースでは、交通事故と死亡に“相当因果関係”が認められるのかどうかが重要となります。相当因果関係が認められた裁判例をいくつか紹介します。

大阪地裁 平成9年1月23日判決(被害者:68歳男性)
【交通事故から死亡に至る状況】
・胃潰瘍を発症していた被害者が、事故で頭部外傷、右第3、第4、第5肋骨骨折、右血胸、肺挫傷、腎損傷、左足関節脱臼骨折の傷害を負い、その後胃潰瘍による失血で死亡。

【判決内容】
・事故によって被害者が受けた外傷と、もともと被害者に発症していた胃潰瘍とが相俟って、被害者が死亡したと認めるのが相当。
・事故は、被害者の胃潰瘍を増悪させ被害者を死亡させたものとして、事故と死亡との間には相当因果関係を認めることができる。
・素因減額として70%の損害は控除。

東京地方裁判所 平成11年2月23日判決(被害者:64歳男性)
【交通事故から死亡に至る状況】
・肝性脳症と肝硬変の既往症を持つ被害者が、事故で胸腹部打撲内出血、背部打撲の外傷を負い、その後肝不全で死亡。

【判決内容】
・外傷と肝硬変とのそれぞれの寄与割合については、医学的な見地から、どちらが何割ということは困難であるが、事故と死亡との因果関係は否定できない。
・被害者の肝硬変の病状は安定しており、事故がなければ、この時点で死亡するということはなかったと言える。
・このような観点からは、本件の事故の死亡に対する寄与割合は60%と考えるべきである。

大阪地方裁判所 平成14年5月23日判決(被害者:93歳男性)
【交通事故から死亡に至る状況】
・被害者が事故で右大腿骨頸部骨折を負い、事故から約2ヶ月半経過した後に急性呼吸不全により死亡。

【判決内容】
・被害者は手術及び長期間の入院生活などから、体力や免疫力の低下に陥ったものとして、事故と死亡との間には相当因果関係を認めることができる。
・素因減額として70%の損害は控除。

事故と死亡に相当因果関係があると認められれば、遺族は加害者に交通事故の死亡慰謝料を請求することができます。ただし、「死亡に対する事故の寄与度」と、「既往症・持病などの素因」により、慰謝料が減額される可能性があることに注意しましょう。

まとめ

今回は老人・高齢者の交通事故による死亡慰謝料について解説しました。

死亡慰謝料には、被害者本人に対する死亡慰謝料と、遺族に対する慰謝料があり、3つの算定基準(自賠責保険責基準、任意保険基準、弁護士基準)があります。

本人分の慰謝料を請求できるのは遺族(相続人)です。また、遺族分の慰謝料を請求できるのは、生前に故人と関係の深かった遺族となるため、被害者が高齢者の場合は「配偶者」や「子供」、「同居している孫」などが考えられます。

自賠責保険基準における死亡慰謝料の総額は、最低金額(請求権者が1人で被扶養者なし)で「900万円」、最高金額で「1300万円」(請求権者3人以上で被扶養者あり)となります。

任意保険基準における慰謝料は非公開です。一般的には自賠責保険基準の金額よりは多く、弁護士基準の金額よりは低いと言われています。

弁護士基準における慰謝料は、被害者本人の立場によって金額が異なり、全国的にもっとも利用されている赤い本の基準では、高齢者の死亡慰謝料は「2000万円~2500万円」が相場と示されています。

ただし、弁護士基準の金額は、あくまで目安です。実際の裁判では、個別の事情(本人の家庭内での役割、事故原因、同居している遺族など)を考慮して、本人分や遺族分の慰謝料が増額されたり、子だけでなく孫にも慰謝料が認められたりしています。

また、高齢になると、持病や既往症、体力低下などにより、交通事故と死亡との因果関係が問題となる場合があります。事故と死亡に相当因果関係があると認められれば、死亡慰謝料を請求できますが、「死亡に対する事故の寄与度」と、「既往症・持病などの素因」による慰謝料の減額に注意しましょう。

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