こんにちは、管理人です。交通事故による受傷のため、通常のように働くことができなくなった場合の補償として、「休業損害」があります。
被害者が自営業者の場合、有給休暇などはないため、休業した日数分の収入が直接減ることとなってしまい、大変切実な問題です。
また、自営業者には給与明細がなく、サラリーマンのように会社が休業損害証明書を発行してくれることもないため、収入の減少を証明することが難しいといった問題もあります。
今回は、自営業者の休業損害について詳しく解説します。
目次
休業損害とは
休業損害とは、傷害の完治、あるいは症状固定までの期間において、交通事故による受傷のために十分な仕事ができず、本来得られたはずの収入が得られなかったことによる損害を意味します。
症状固定後も後遺障害により休業している場合は、休業損害ではなく「逸失利益」という別の損害賠償項目となりますので、注意しましょう。
まず、自賠責保険基準における休業損害について説明します。
自賠責保険基準の休業損害算出方法
自賠責保険基準では、自営業やサラリーマンといった職業の種類に関わらず、休業1日あたりの基礎収入額は「原則5,700円」です。従って、休業損害の計算式は、下記のとおりとなります。
ただし、1日5,700円以上の収入があることを資料等により立証できれば、自賠責保険基準では「19,000円」を限度として、実際の収入に基づく金額を1日あたりの基礎収入額とすることができます。
また、「19,000円」を超える収入がある場合は、相手(加害者)側の任意保険会社に支払ってもらうこととなります。
自営業者の収入を立証する資料とは
自営業者の場合、収入を立証する資料として必要となるのは、事故前年分の「確定申告書控え」(税務署の受付印があるもの)です。
このほか、所得金額の構成や正否を確認するために、下記の資料が必要となるケースもあります。
・白色申告者の場合「収支内訳書控え」
・青色申告者の場合「青色申告決算書控え」
・事故当年分の「課税証明書」
・事故前年分の「納税証明書」
自営業者の一般的な休業損害算出方法
休業損害は、基本的に下記の流れで算出します。
①1日あたりの基礎収入額の設定
②休業日数の把握
③上記①、②をもとに休業損害を算出
自営業者の場合、一般的には前年分の「確定申告書」に記載した内容をもとに、休業損害を算出することとなります。
1日あたりの基礎収入額の設定
まず、前年分の「収入」から「原価」と「諸経費」を差し引きます。これを365日で割ったものを、1日あたりの基礎収入額とします。計算式にすると、下記のとおりです。
なお、休業中も支出を余儀なくされる「固定経費」については、損害として請求することが認められているため、収入から差し引く「諸経費」に「固定経費」を含まないよう注意しましょう。
一般的な固定経費としては、下記のような費目があります。
・従業員の給料
・地代家賃
・減価償却費
・損害保険料
このほか、事業のために必須な費用(商売上必須な組合加入費など)であれば、固定経費として認められる可能性があります。
休業日数の把握
休業日数とは、交通事故の受傷により実際に仕事を休んだ日数のことです。もっとも、必要性がないのに仕事を休んでいた場合は、当然休業日数にはカウントされません。
原則として、入院期間は休業日数として認められます。通院期間については、医者から必要だと認められている範囲であれば、休業日数として認められます。
また、自宅療養については、医師の指示がなければ、休業日数として認められない場合が多いので、注意しましょう。
このようにして算定した「1日あたりの基礎収入額」と「休業日数」を乗じた金額が、自営業者の休業損害額となります。
自営業者の休業損害算定が複雑になるケースとは
交通事故の受傷により休業し、その結果生じた減収が明らかで、且つ確定申告した所得額にも争いがないケースであれば、自営業者の休業損害算定はそれほど難しくはありません。
しかしながら、実際には様々な問題により、単純に前年分の「確定申告書」から休業損害を算定できないケースがあります。
確定申告で過少申告をしていたケース
自営業者の確定申告において、節税のために「過少申告」で所得を少なく申告しているケースは、実際に珍しいことではありません。
このような場合、申告した金額よりも多い収入があったことを資料(「預金通帳」や「請求明細書」、「注文請書」など)できちんと丁寧に立証できれば、実際の収入を基準とすることは可能です。
ただし、これらの資料をもとに丁寧に立証したとしても、保険会社との交渉は難航する可能性が高く、訴訟の覚悟が必要でしょう。
確定申告をしていなかったケース
確定申告をしていなかった場合、無収入として休業損害がもらえないかというと、必ずしもそうではありません。
上記「確定申告で過少申告をしていた場合」と同様、実際の収入が分かる資料を用意して丁寧に立証することで、休業損害が認められる可能性があります。
赤字申告だったケース
事故前年の確定申告が赤字申告だった場合、前年の売上額に基づく休業損害の算定ができないことになります。
このような場合の対応は個々のケースにより様々ですが、下記のような休業損害が認められた裁判例があります。
・自賠責保険の範囲内で「1日あたり5,700円」の休業損害を認める。
・前年との赤字額を比較し、赤字が拡大した額を休業損害とする。
・賃金センサス男子平均賃金の一定割合を休業損害とする。
家族で事業を行っているケース
家族で事業を行っている自営業者では、家族に給与を支払っていないものの、「家族全体の労働で得た所得=事業主の所得」として申告しているケースがあります。
このような場合、申告された所得額をもとに事業主の休業損害を算定すると、金額が多くなりすぎてしまいます。
対応としては、申告された所得額に対し、事業主の寄与率を乗じた額をもとに基礎収入額を算定するといった裁判例があります。
まとめ
今回は、自営業者の休業損害について解説しました。
自賠責保険基準では、自営業などの職業によらず、休業損害は「1日あたり原則5,700円」です。ただし、1日5,700円以上の収入があることを立証できれば、「19,000円」を限度として、実収入額を1日あたりの基礎収入額とすることができます。
自営業者の実収入額をもとにする場合、一般的には前年分の「確定申告書」に記載した内容から純収入を算定し、これを365日で割ったものを「1日あたりの基礎収入額」とします。これと「休業日数」を掛け合わせて、休業損害を算出します。
ただし、実際には、過少申告や確定申告していないケース、赤字申告のケース、寄与率の考慮が必要なケースなど、単純に前年分の「確定申告書」から休業損害を算定できない場合があります。このような場合は、実際の収入が分かる資料などによる立証が必要であり、保険会社との交渉は難航する可能性が高いため、訴訟も覚悟して、しっかりと準備をしましょう。
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