こんにちは、管理人です。
交通事故を起こして刑事上の罪に問われることとなった場合、その量刑とはどのようなものになるでしょうか。
例えば交通事故を起こし、相手に大きな怪我を負わせて「過失運転致死傷罪」が適用されることとなった場合、懲役刑や罰金刑など、具体的にどのような量刑が下されることになるのでしょうか。
今回は交通事故における量刑とはどのようなものなのかについて解説します。
目次
交通事故で問われる罪と刑罰とは
交通事故を起こした場合の罪は、『自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律』(以下、『自動車運転死傷処罰法』と略記)と『道路交通法』に定められています。
『自動車運転死傷処罰法』に定められた罪と刑罰
『自動車運転死傷処罰法』に定められた罪と刑罰は下記のとおりです。
罪名 | 罪の内容 | 刑罰 |
---|---|---|
危険運転致死傷罪 (第2条) |
以下の行為により自動車を運転して人を負傷もしくは死亡させた。
|
負傷の場合は15年以下の懲役(無免許の場合は6月以上の有期懲役)、 死亡の場合は1年以上の有期懲役 |
危険運転致死傷罪 (第3条) |
アルコール又は薬物の影響、もしくは、自動車の運転に支障を及ぼすおそれがある病気として政令で定めるものの影響により、正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で自動車を運転して人を死傷させた。 | 負傷の場合は12年以下の懲役(無免許の場合は15年以下の懲役)、 死亡の場合は15年以下の懲役(無免許の場合は6月以上の有期懲役) |
過失運転致死傷アルコール等影響発覚免脱 (第4条) |
アルコール又は薬物の影響により人を死傷させた場合において、その影響の有無又は程度が発覚することを免れるべき行為をした。 | 12年以下の懲役(無免許の場合は15年以下の懲役) |
過失運転致死傷罪 (第5条) |
自動車の運転上必要な注意を怠り、人を死傷させた。 | 7年以下の懲役(無免許の場合は10年以下の懲役)もしくは禁固、 又は100万円以下の罰金 |
無免許運転 (第6条) |
無免許で自動車を運転した。 | 第2条~第5条の刑罰を、さらに加重 |
第6条の規定により、無免許運転の場合は、第2条~第5条の刑罰に対し、さらに刑の加重がされます。
交通事故で問われる刑事上の罪として最も件数が多い「過失運転致死傷罪」では、起訴された場合は、“7年以下の懲役刑 or 7年以下の禁固刑 or 100万円以下の罰金刑”のいずれかの量刑が下される可能性があり、さらに、実刑か執行猶予かといった裁判所の判断があります。
『道路交通法』に定められた罪と刑罰
『道路交通法』に定められた罪と刑罰は下記のとおりです。
罪名 | 罪の内容 | 刑罰 |
---|---|---|
加害者の緊急措置義務違反 (第72条前段) (第117条1項) (第117条2項) |
交通事故時、運転者等は直ちに車両等の運転を停止して、負傷者を救護し、道路における危険を防止する等必要な措置を講じなければならないが、これに違反した。 | 5年以下の懲役又は50万円以下の罰金 (死傷が運転者に起因する場合は、10年以下の懲役又は100万円以下の罰金) |
警察への報告義務違反 (第72条後段) (第119条1項) |
交通事故時、運転者等は現場の警察官あるいは最寄りの警察署の警察官に、事故発生日時、場所、死傷者数、負傷の程度、物の損壊の程度、車両等の積載物、当該交通事故について講じた措置を報告しなければならないが、これに違反した。 | 3月以下の懲役又は5万円以下の罰金 |
酒酔い運転 (第65条) (第117条2項2) |
酒酔い状態(体内アルコール量に関係なく、運転手の状態が正常な運転ができるかどうかをみて総合的に判定)で運転した。 | 5年以下の懲役又は100万円以下の罰金 |
酒気帯び運転 (第65条) (第117条2-2項3) |
酒気帯び状態(血液1mlにつき0.3mg以上または呼気1lにつき0.15mg以上0.25mg未満)で運転した。 | 3年以下の懲役又は50万円以下の罰金 |
いわゆる「ひき逃げ」をした場合は、『道路交通法』第72条前段「加害者の緊急措置義務」と、第72条後段「警察への報告義務」の両方に違反したことになります。
実際の交通事故の量刑
それでは、実際に発生した交通事故は、検察庁や裁判所においてどのように処理されたのでしょうか。
検察庁における処理状況
平成27年の「交通事件」処理区分別構成比が犯罪白書で発表されています。
参考:http://hakusyo1.moj.go.jp/jp/63/nfm/images/full/h4-1-3-01.jpg
白書を読むと、危険運転致死傷では、公判請求の構成比が76.6%と、一般事件の23.4%と比べてかなり高いことが分かります。
また、過失運転致死傷等および道交違反では、公判請求の構成比はそれぞれ1.1%、2.4%とかなり低くなっており、過失運転致死傷等では不起訴となることが最も多く、道交違反では略式命令請求が最も多いことが分かります。
裁判所における処理状況
前述の犯罪白書では、通常第一審において、有罪(懲役刑または禁錮刑)を言い渡された人における、罪名ごとの科刑状況が掲載されています。
参考:http://hakusyo1.moj.go.jp/jp/63/nfm/images/full/h4-1-4-01.jpg
罪名ごとの科刑状況を簡単に整理すると下記のとおりとなります。
■危険運転致傷について
・言い渡しを受けた327人(①40人+②287人)中、実刑は53人(16.2%)。
・実刑となった人の刑期は「1年以上」と「2年以上」がそれぞれ18人と最多。
■危険運転致死について
・言い渡しを受けた32人(①9人+②23人)のうち、実刑は31人(96.9%)。
・実刑となった31人のうち22人は、刑期が「5年」超と長い。
■自動車運転過失致死傷および過失運転致死傷について
・言い渡しを受けた4,260人(①766+393人+②2,055+1,046人)中、実刑は174人(4.1%)。
・実刑となった人の刑期は「1年以上」が最多。
■道交違反について
・言い渡しを受けた6,376人のうち、実刑は1,057人(16.6%)。
・実刑となった人の刑期は「6月以上」が最多だが、刑期が長い人もいる。
個々の事例ごとに量刑は異なりますが、最も罪が重い危険運転致死では実刑となることが極めて多く、さらに実刑のうち7割以上が5年超の刑期という厳しい量刑となっています。
量刑はどのように判断されるのか
それでは、刑の種類の選択(懲役刑or禁錮刑or罰金刑)や、刑期の長さ、実刑・執行猶予の選択などの具体的な量刑は、どのような要素から判断されるのでしょうか。
量刑の判断に影響する要素とは
量刑の判断に影響する主な要素としては、下記のものがあります。
- 加害者の過失の大きさ
- 死傷者の数や怪我の程度
- 被害者などの過失の大きさ
- 被害者との示談の成否
- 被害者感情
- 前科の有無
- その他の減軽事由
加害者の過失の大きさ
加害者の過失の大きさとは、その事故が起きた原因や背景として、“車を運転していた加害者がどのような法令違反をしていたのか”ということになります。
例えば、事故の原因が加害者の信号無視や安全不確認、酒酔い・酒気帯び運転、相当なスピード違反等による場合、その過失の大きさが刑の重さに直結することとなります。
また、事故時の救護措置義務を怠るといった、いわゆる「ひき逃げ」をした場合は、執行猶予とはならずに懲役刑の実刑となる可能性がかなり高くなります。
死傷者の数や怪我の程度
事故による死傷者の人数が多いほど、刑が重くなる可能性があります。また、怪我の程度や事故による後遺症が重いほど、刑が重くなる可能性があります。
例えば被害者が全治3週間未満の軽傷だった場合は不起訴または罰金刑となることが多いですが、全治3週間以上の怪我の場合は、起訴されて執行猶予または実刑となる可能性が高く、かなりの重症か死者がでた場合は実刑となる可能性が高くなります。
被害者などの過失の大きさ
事故発生時、被害者や加害者以外の第三者の行動に重大な過失がある場合は、刑が軽くなる可能性があります。
例えば、被害者が酔っ払って道路で寝ていたために事故が発生した場合、被害者側にも重大な過失があるとして、不起訴や執行猶予となったり刑が軽減されたりすることがあります。
被害者との示談と賠償
事故後、被害者との示談が成立しているかどうか、また、被害者に対してきちんと賠償がされているのかどうかも、量刑に影響する要素となります。
例えば示談が不成立で、保険にもきちんと加入していなかったために十分な賠償額を支払うことが難しいような場合は、刑が重くなる可能性があります。
被害者感情
被害者感情も、量刑の判断に影響があると言われています。ただし、被害者感情が量刑に直結してしまうと、個々の事案ごとに量刑に大きな差異が生じる可能性があることから、あくまで“量刑にあたって考慮されるべき事情の一つ”として判断されます。
例えば「示談書」において、“本件を宥恕する”といったような記述で「宥恕(ゆうじょ)」の意思表示がされた場合、被害者は加害者に対して“寛大な心で許す”ことを望んでいるとして、不起訴や執行猶予となったり刑が軽減されたりすることがあります。
逆に、加害者の態度が非常に悪質だったために、被害者が“加害者に対して厳罰を希望する”といった内容の「上申書」を提出した場合は、刑が重くなる可能性があります。
前科の有無
前科の有無は、特に実刑か執行猶予かの選択に強く影響します。
例えば禁錮以上(執行猶予を含む)の前科がない場合は、起訴されても執行猶予となる可能性がありますが、前科がある場合は執行猶予となることが難しくなり、多くの場合、実刑となります。
その他の減軽事由
その他の減軽事由とは、例えば下記のものがあり、“情状に酌量すべきもの”として量刑の判断に影響する可能性があります。
- 養うべき家族がいる
- 自首した
- 若年あるいは老年である
- 社会的制裁を受けている
まとめ
今回は交通事故における量刑とはどのようなものなのかについて解説しました。
交通事故を起こした場合、『自動車運転死傷処罰法』と『道路交通法』により、懲役刑や禁固刑、罰金刑などがそれぞれの罪に対して定められています。
例えば交通事故で最も件数が多い「過失運転致死傷罪」では、『自動車運転死傷処罰法』により“7年以下の懲役刑 or 7年以下の禁固刑 or 100万円以下の罰金刑”と定められています。
平成27年度に実際に発生した交通事故では、危険運転致死傷の場合は検察庁による公判請求の割合が一般事件と比べてかなり高くなっていますが、過失運転致死傷等と道交違反では公判請求の割合が非常に低く、過失運転致死傷等では不起訴が、道交違反では略式命令請求が最も多くなっています。
個々の事例ごとに量刑は異なりますが、危険運転致死では実刑となることが極めて多く、さらに実刑のうち7割以上が5年超の刑期という厳しい量刑となっています。
一方で、危険運転致死以外の過失運転致死傷や道交違反などは、執行猶予となることが多く、実刑となっても比較的軽い量刑が多くなっています。
裁判所では、法律上定められた刑罰の内容と、実際の交通事故における下記の要素をもとに、刑の種類の選択(懲役刑or禁錮刑or罰金刑)や、刑期の長さ、実刑・執行猶予の選択などの具体的な量刑を判断します。
- 加害者の過失の大きさ
- 死傷者の数や怪我の程度
- 被害者などの過失の大きさ
- 被害者との示談の成否
- 被害者感情
- 前科の有無
- その他の減軽事由
例えば加害者が飲酒運転や信号無視をしたなど過失が大きかったり、死傷者の数が多かったり、被害者との示談が不成立で被害者から厳罰を求められたりした場合は、刑が重くなったり、実刑となったりする可能性があります。
特に前科があると、多くの場合で実刑となります。
逆に、被害者側にも過失があったり、被害者との示談が成立して被害者から寛大な措置が求められていたり、加害者に養うべき家族がいたりすると、不起訴となったり、刑が軽くなったり、執行猶予となったりする可能性が高くなります。
事故における過失や被害をなかったことにすることはできませんが、万が一加害者となってしまった場合は、被害者に対し誠意ある対応をして賠償責任などをしっかりと果たし、二度と交通事故を起こさないように注意することが重要です。
交通事故で被害者になってしまったら。。。
保険会社から提示された慰謝料や過失割合、治療費などに納得いかないなら、和解する前に弁護士に相談するのがポイントです。
弁護士に相談するだけで、慰謝料が大幅に増額されることが多くあります。
相談は無料ですので、増額になりそうな場合だけ正式依頼すれば余計な費用もかかりません。
また、報酬は後払いなので賠償金を受け取ってから払うこともできます。